今日は朝から雨。
つむぎの通う保育園には共有の駐車場がない為、雨の日の登園は近くの駐車場に車を止めてから傘を差して歩いて保育園まで向かう。
「今日は自転車で行けない?」
つむぎは少し残念そうだが、「その代わり、長靴を履いて傘を持っていこうか?」と誘うと、嬉しそうに登園の準備をした。
いつもより少し遅れ気味で家を出ると、雨はちょうど止んでいたが、つむぎは嬉しそうに傘を差して足元に水たまりを見つけては長靴でそこを歩き、雨の日には雨の日にしか出来ない事を楽しみながら歩いていた。
本来朝の9時に登園するところが、今日は9時30分に保育園に到着した。
30分の遅刻。
「つむ、急げ急げ!」と、手を繋いで教室に入ると、先生はいなかったがもうすぐ朝の踊りの時間が始まる様で、園児たちは教室の壁に一列に並び座っていた。
ちょうどその列の一番後ろに、つむぎの荷物入れの棚があるからワタシはつむぎを連れてその棚まで向かおうとすると、1人の園児が手を上げながらワタシに元気よく声をかけた。
「あ!つむちゃんパパー!」
こうやって、つむぎを通してワタシにも出来た小さな友だち。
何より、「つむちゃんパパ」という響きが気分いい。
ワタシは意気揚々にその子へ近寄り、上げている小さな手にハイタッチをした。
すると、そのハイタッチを見ていた隣の子もスッと手を上げてワタシとハイタッチ。
更にそれを見ていた隣の子もワタシとハイタッチ。
一番後ろの棚へ到着するまで、そのハイタッチの連鎖は次から次へと続いた。
まるでプロ野球選手がホームランを打った後、ベンチに戻った際にチームメイトからハイタッチで迎え入れられているような、そんな光景。
忘れてはいけない。
30分遅刻している。
30分遅刻しておきながら、オレンジのパーカーに半ズボン姿のワタシは、ホームランバッターかの様な雰囲気で園児たちとハイタッチを交わしながら一番後ろの棚まで歩いている。
「イエーイ」と陽気にハイタッチしながらも、〈30分も遅刻しといて、こんな姿もし後ろから先生が見てたら…〉それを考えると、ワタシは怖くて後ろを振り向く事が出来なかった。
途中、「あ、つむちゃんパパヒゲがあるー!」と、別の子が叫んだ。
後ろを振り向かないと決めたワタシは、「そうよー!」と、元気に返答。
これに反応した園児たちはハイタッチタイムを終了させ、次は『ヒゲ』という単語に次々と反応しだした。
そして始まったのが、題して『わたしのパパのヒゲ』
あっちこっちから、パパのヒゲの様子を発表する声が聞こえる。
「わたしのパパもヒゲあるよー」
「ぼくのパパがちょっとだけ」
「うちのパパはボコボコ」
〈ん?ボコボコ?〉
更にはお題そっちのけで、「わたしのパパは今日うんちしたよ」
そんな子まで登場。
3歳のクラスとは言え、成長の様子は様々でビックリするくらいおしゃべりが上手な子も多い。
素直な園児たちは当然、いろんな事を包み隠さず話してくれる。
きっと次保育園でその子たちのパパを見た時、「あ、ヒゲのパパ。あ、ちょっとだけのパパ。なるほど、これがボコボコか。あ、うんちしてたパパ。」と言った目で、ワタシはそのパパたちの事を見てしまうだろう。
つむぎはまだそこまでおしゃべりが上手ではない上に、保育園では物静かにしているから思った事もなかったが、家の中だからと言ってふざけた事ばっかりしていると、「つむのパパね〜…」と、いつか筒抜けで話されてしまう日がくるという事か。
油断禁物。
陽気なホームランバッター気取りだったワタシは、気を引き締め直し再度前進。
ようやく棚に着き、つむぎの荷物を入れて準備を済ませ、教室を後にしようとするとまた別の子が叫んだ。
「あ!足に毛があるー!」
ちょっと待ってくれ。
これが9時前なら、ワタシもまだ心に余裕を持ってキミたちを相手したい。
だが今日は30分遅刻している。
更にハイタッチとヒゲの話しまで。
恐る恐る後ろを振り返って見ると、先生の姿はまだない。
勝負は一瞬。
そう思い、ワタシはすね毛を抜くフリをして、その子たちに思い切り投げるそぶりそ見せた。
「キャー!」
「ギャー!」
想像以上に盛り上がる園児たちを背に、無事退室。
そこで先生に会い、何もなかったかのように挨拶を交わし、教室のつむぎに手を振った。
つむぎは何とも浮かない表情でこっちを見ていた。
その表情に手を振りながら、いつ、どこで、誰に話しをされてもいい、そんな父になろう。
そう心に決めた。
保育園を出ると小雨が降っていたが、ワタシは傘を差さずに駐車場まで歩いた。
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